2021.12.30
接遇マナーの5原則とは?医療現場で求められる接遇について解説
近年、医療従事者の中で「接遇」の大切さが、改めて見つめなおされるようになりました。
医療における接遇は、患者さんの不安や苦しみを取り除き患者様と対等な立場に立ち「寄り添う気持ち」を大切にしたものです。
また、医療接遇には「接遇マナーの5原則」が、基礎としてあります。
今回は「接遇マナーの5原則」を詳しく解説し、医療現場の接遇で意識したいことや得られる効果についても紹介します。まずは、医療現場で「なぜ接遇が必要とされるのか」について解説しましょう。
接遇とは?
接遇とは、接客の延長線上にある「おもてなし」を、さらに深めたものとされています。
具体的に例をあげると、家族旅行に出かけてホテルでチェックインする際に「ようこそ、いらっしゃいませ」と声をかけられることは接客です。
幼い子ども達が、新しい場所に不安を感じないようウェルカムサービスで心を解きほぐしてくれたり「ごゆっくりご滞在くださいませ」と一声かけられることは、接客の先にある接遇となります。
近年、医療や介護・教育の現場でも接遇が取り入れられ拡充し続けています。
医療現場で接遇が必要とされるのは、なぜ?
医療現場において、接遇が求められるようになったのはなぜでしょうか。
それは、主に以下の2つが重要視されるようになったためとされています。
- 患者様に安心して来院してもらうため
- 個人を尊重し、医療現場を居心地のいい空間にするため
詳しく解説しましょう。
患者様に安心して来院してもらうため
医療現場で接遇が必要とされるようになったのは、患者様に安心して来院してもらうためです。
医療の場に足を運ばれる方の多くは、診察や診断に不安や緊張を抱えています。また、待ち時間がストレスとなってしまう方々も多いものです。
来院して頂いた方への不安をできるだけ取り払い、安心して診察・治療するためのケアが、ここ数年でとても重要視されるようになりました。
患者様だけでなく付き添いのご家族の方や支援者の方々もまた、同じような気持ちを抱えています。
医療的な視点や病院側の事情で診察・治療のみを提供していると、結果として患者様本人やご家族の気持ちを害してしまうことにもなりかねません。それによって、今後の継続的なケアが難しくなってしまうケースもあります。
患者様と最初に言葉を交わすこととなる窓口の方々はもちろん、医療に従事する方々全員が、患者様のそのときどきの症状や状況に応じた対応が求められます。そうした「医療接遇」の対応が、結果として自分たちの働きやすさと繋がるために広まりをみせるようになりました。
個人を尊重し、医療現場を居心地のいい空間にするため
医療現場で接遇が必要とされるようになった2つ目の理由は、個人を尊重し医療現場を少しでも心地よい空間にするためとされています。
とはいえ、患者様の仰る通りにすればいいというわけではありません。医療従事者としての視点から「すべきこと」と「そうでないこと」を考慮しつつ、患者様に寄り添うことも接遇のポイントです。
医療に限りませんが、これまでの日本社会は医療も福祉も教育も「集団的ケア」が主流でした。近年は、個々人それぞれに合せたカリキュラムやケアへと変容しています。
社会背景にあわせて、医療従事者の患者様への関わり方でも接遇が重要視されるようになりました。
医療接遇による対応で、患者様と医療従事者の間に信頼感が育まれていくことは働く上での充実感にも繋がります。同時に、医療現場も居心地の良い空間になるとされています。
接遇マナーの5原則とは?
医療接遇を行うためには「接遇マナーの5原則」があります。
主に、以下の5つが 「接遇マナーの5原則」 のポイントとされています。
- 身だしなみ
- 挨拶
- 表情
- 言葉遣い
- 聞く(聴く)姿勢
詳しく解説しましょう。
身だしなみ
接遇では、第一印象を決める「身だしなみ」を大切にしましょう。
身だしなみを意識することで周囲の対応もかわってくるとされています。
病院に来院される患者様や付き添いのご家族の方は、不安を抱えている方も多いものです。その不安を少しでも緩和して貰うためには、医療スタッフの第一印象が話しかけやすさに繋がります。
以下の図をもとに、自分自身の衛生面や身だしなみをチェックしてみましょう。
服装 | ・スタッフ全員で統一感がある ・シワやシミがない ・サイズ感も問題ない ・派手なアクセサリーはつけていない など |
ヘアスタイル | ・清潔感のあるヘアスタイル ・長い髪は束ねられている ・前髪によって表情が隠れていない ・ヘアカラーは明るすぎない |
メイク | ・ナチュラルメイクを心がける |
その他 | ・爪は短く切られている ・医療従事者は基本ネイルはNG ・香水や整髪料の香りがきつくない |
いかがだったでしょうか?
これだけではありませんが清潔感ある身だしなみを意識して一日を過ごすだけで、自分自身のモチベーションが変わるだけでなく周囲の対応も柔らかに変わっていくことでしょう。
挨拶
接遇だけに限りませんが「挨拶」も、人との関りにおいてとても重要な役割を果たしています。
接遇における挨拶は、スタッフの方から爽やかで朗らかであることを意識して取り組むようにしましょう。
朗らかな挨拶によって患者様へ安心感がもたらされ、その後のコミュニケーションに大きく影響を与えます。
ここでは、医療接遇における挨拶のポイントを紹介しましょう。
- 相手の目をみて、朗らかな表情と声で挨拶をする
- 「私にいつでもお声がけください」と伝わるような、心の開いた態度を意識する
- かしこまり過ぎると、相手もかしこまってしまうために注意する
- 車椅子の方や怪我をされている方には目線の高さを合わせて挨拶(サポートの可否についても自然な形でお声がけしてみましょう)
目の前の仕事に集中していると、挨拶が雑になってしまいがちです。上記を意識して取り組むようにしましょう。
表情
接遇では「表情」も、とても大切とされています。
まずは、柔らかな表情を意識して「いつ話しかけて貰っても大丈夫です」と、無言でも伝わるような穏やかな雰囲気を作り出すことが大切です。
待合室にいる患者様というのは直接話をしていなくてもスタッフの表情をよくみています。そのため、日頃から柔らかな表情を意識して仕事に励むようにしましょう。
また、患者様のお話を伺うときにも同じように柔らかな表情を意識しましょう。聞き手の表情によって話し手の心は解きほぐされ、コミュニケーションが円滑に進むようになります。
ただ、お話を伺う中で「ツラかったこと」「不安であること」を伝えて下さった場合には、相手にあわせてに寄り添うように表情も替えてみましょう。
医療スタッフに傾聴してもらっていると感じた患者様は「もっと相談しよう」「これからもここのクリニックを利用しよう」と思っていただけるはずです。
口角があがった表情が習慣となれば、周囲だけでなく自分自身も明るい気持ちを維持しやすいとされていますよ。
言葉遣い
医療接遇では、特に「言葉遣い」に注意しましょう。
病院・クリニックに来院される患者様の多くは自分より年配の方もいらっしゃいます。一方で、小さなお子様連れの方もいらっしゃるはずです。
幅広い年齢層の方全てに、同じ言葉遣い(ボリュームやトーンなど)で対応していては立場によっては不快に取られてしまうこともあります。相手によって言葉遣いの距離感をわきまえ、敬語や謙譲語・ボリュームやトーンを使い分けるようにしましょう。
ここでは、医療接遇において注意すべき言葉遣いのポイントを紹介しますので、参考になさってくださいませ。
- 医療従事者にしかわからないような専門用語は避ける(誰にでもわかるような言葉を選らんで話す)
- ご高齢の方にも、尊厳を損なわないような口調を心がける(親しみを込めた馴れ馴れしい話し方は避ける)
- 命令口調や上から目線の言葉遣いにならないように注意する
いずれにしても、表情に合せた穏やかな声で話しかけることが基本となります。
聞く(聴く)姿勢
接遇マナーの5原則の最後は「聞く(聴く)姿勢」です。
ここでひとつ余談ですが「きく」という言葉は大きく3つの漢字に分けられ、それぞれの意味も違ってきます。以下をご覧くださいませ。
◇「きく」の漢字と意味について
訊く (ask) | 尋ねる 問う 取り調べる |
聞く (hear) | 聞こえる 聞いている 声が耳に入る |
聴く (listen) | 聴こうと努力する 相手の言いたいことを聴く |
医療接遇で大切にしたいのは「聞く」と「聴く」で、特に大切になってくるのは「聴く」の聴こうとする努力です。
なぜ、医療現場で「 聞く(聴く)姿勢 」が大切なのでしょうか。
体に不調を抱えた患者様は、心にも大きな不安を抱えています。「不調」と「不安」の両方を抱える中で、病院へ足を運ばれています。
プレッシャーの多い患者様の不安を解きほぐすのは、医療接遇です。
医療スタッフの聞く(聴く)姿勢次第では「自分を理解しようとしてくれている」と感じ、心の不安を解きほぐしてから診療に進んでもらうことができます。
ただ、人というのは相手に対して信頼を置けなければ「話したくない」と拒否反応を強めます。反対に、積極的に自分の話を聴いてもらっていると分かれば、自然と自ら悩みや困り感を打ち明けてくれるようになります。
そのため、医療接遇では 「 聞く(聴く)姿勢 」 がとても大切であるとされています。
信頼関係が生まれるとクレーム予防にも繋がり、今後の仕事のしやすさと直結します。「クレームをおこさないために」を中心に書いた記事は、【クレームを起こさないために】「苦情の本質」や「対応の基礎」を解説もあわせてご覧くださいませ。
【医療接遇のメリット】接遇によって得れる効果
医療接遇によって得ることができるメリット(効果)についても解説しましょう。
医療接遇を用いることで期待できることは、以下のようなことがあげられます。
- 職場全体の環境が良くなる
- 増患と増収を期待できる
- トラブルを未然に防ぐことができるようになる
詳しく解説しましょう。
職場全体の環境が良くなる
医療接遇を取り入れることによって、職場全体の環境が良くなります。
医療接遇は、患者様のために施されているように感じます。実際に、患者様の満足度を高めるために医療接遇を取り入れているクリニックは多いものです。
しかし、医療接遇を取り入れることで医療スタッフみんなが働きやすくなるというメリットもあります。
仕事上の一環としての接遇ではなく「自分の心」そのものへ接遇を取り入れることで、スタッフ間でも「おたがいさま」の心が生まれます。相手を尊重しお互いの働き方を「理解したい」と考える習慣を手にすることができます。
そうした、さまざまな要因によって職場全体の環境が向上していくとされています。
増患と増収を期待できる
医療接遇を取り入れることによって、増患と増収も期待できます。
医療接遇によって、院内環境が向上すれば患者様のリピート率も期待できます。また、インターネットによる口コミなどを利用し、よい評判が拡散されれば患者様のリピート率とともに増収も増えます。
患者様の視点に立つと、医療の質や設備はクリニック選びの決め手としてとても大切です。しかし「この病院へはまた来たいな」と患者様に思っていただくためには、院内の雰囲気や心地よさがとても大切になります。
インターネット社会となり、すぐに噂や評判が広まる社会になりました。医療接遇は、近年とても大切な経営力のひとつといえます。
トラブルを未然に防ぐことができるようになる
医療接遇を取り入れることによって、トラブルを未然に防ぐことができるようになります。
医療接遇には、医療従事者と患者様との信頼関係の構築を築く効果がとても大きいです。
患者様とのトラブルやクレームというのは、思わぬところから発生します。クレームなどのトラブルが起きてしまうと、対応や診察の拒否にも繋がりかねません。
とはいえ、その多くは信頼関係の構築ができていなかったために起こってしまうもの。
医療接遇を用いて、日頃から信頼構築を作り上げればトラブルやクレームを減っていきます。トラブルやクレームが減ることで業務や労力の削減にも繋がります。
スタッフも心地よく働くことができますし、来院された方も心地よく過ごして貰うことが可能となります。
まとめ:接遇マナーの5原則とは?医療現場で求められる接遇について解説
今回は、 接遇マナーの5原則を詳しく解説しました。
◇接遇マナーの5原則
- 身だしなみ
- 挨拶
- 表情
- 言葉遣い
- 聞く(聴く)姿勢
コロナ禍も進み、多くの方が日々ストレスを抱えて過ごしています。そんな中、医療の最前線で働かれている方々は患者様にとってかけがえのない存在。
医療接遇を身につけることによって、より患者様に寄り添う医療スタッフを目指していただくことが可能となります。
また、患者様のために身に付けた接遇マナーは、いずれ自分の暮らしや自分自身の心情にもより良い形で反映されることとなります。